スイス式「森のひと」の育て方 生態系をまもるプロになる職業教育システム

  • 2015.02.25 Wednesday
  • 04:15
『スイス式「森のひと」の育て方 生態系をまもるプロになる職業教育システム』
浜田 久美子 著
亜紀書房(www.akishobo.com)
定価: 1,800円+税
ISBN 978-4-7505-1404-8

昨年春、『グリエツィ』読者を介して、森と人との関わりをテーマに著述業をしている浜田久美子さんからコンタクトがあった。スイスのフォレスター(森林作業員の職業学校含む)を養成する職業教育システムについてまとめた本を近く出版する予定とのことだった。

日本のある林業会社がスイスの森の人材育成を全面的に取り入れる試みを始めたことをきっかけにして、取材を続けてきたという。取材調査で実際にスイスにも足を運び、スイスのシステムを知れば知るほど、興味深くまたうらやましいと思う点が多くあり、著書の中にそれらを盛りこんでいくといくことだった。

フォレスター養成のシステムについては、現地調査を含めかなり情報収集・取材が進んだが、スイスにおける職業教育システム一般についてまだ充分な調査がすすんでいないので、そのための資料収集、取材調査に協力をして欲しい、という要請だった。知る限りのスイスの教育システム、職業教育システムなどについて資料収集のお手伝いをし、直接会って、自分の子どもの通っている職業学校についてもお話をした。

そして、今年の春先に、浜田さんが準備していた著書『スイス式「森のひと」の育て方』が手元に届いた。非常に興味深い内容にまとめられている。

本書では、もちろん森のプロフェッショナルを育てる職業教育システムが重点的に紹介され、詳しいカリキュラムなどにも踏み込んでいて、それ自体読み応えがある。

その上に、本書全体を通じて、常にスイスの職業教育システムの根幹をなすデュアルシステム-「職業訓練学校で訓練を受けると同時に、実際に働きながら職能を身につける制度」(大辞林第三版)--の果たしている役割、そのシステムが生き生きと機能しているスイス社会の根底に脈々と流れる教育観と思想を常に意識しながら、その中に森のプロフェッショナルを育てる職業教育システムを紹介しているので、単なる職業学校紹介に留まらず、持続可能な社会を築いていくために何が必要かを考えていく上での沢山のヒントを提供してくれている。

 スイスのこのシステムを一律に日本に引き写すことはできないにしても、こうした職業教育の在り方があることを日本の読者に伝えていきたいという思いがひしひし伝わってくる意欲的な内容だ。
 
森の専門家としてのフォレスターとして、本書で中心的に紹介されているのは、チューリッヒ州のフォレスターとして働くロルフ・シュトリッカーさん。そのロルフさんを日本の林業界に紹介したのは、長年チューリッヒで近自然学研究所(注)の活動をしている山脇正俊さん。「近自然」とは、「山脇さんの命名で、スイス・ドイツの環境に対する考え方を基本に据え、私たちの豊かな暮らしを世代を超えて持続させようとする考え方」(本文p. 84)。

「山脇さんは、長年スイスに住み、スイス人のバランス感覚と現実的実践力が発揮された、新しい川づくりや街づくりに強く共鳴し、スイス近自然学研究所を立ちあげ、この概念を日本に紹介し続けてきた」(p. 85)
 山脇さんによると、「できる限り自然と調和させた、街づくりや河川の改修や道づくりなどをするスイス人の考え方は、彼らにとってはごく『当たり前』のため、わざわざ定義する概念や学問を持っていないそうだ。

この山脇さんの『近自然』の概念は、『近自然工学』(北海道工業大学工学部環境デザイン学科岡村俊邦氏、命名)、『近自然学』(明治コンサルタント(株)中林一氏、命名)と発展していった」(本文 p. 85)

スイス在住者のみなさんの中には、子どもさんが中学卒業後の進路決定を前にして、日本との教育観の違いや職業教育システムの違いに戸惑ったり、不安を抱いた経験のある人も少なくないだろう。

本書では、スイスの職業教育システムで実際Lehre / apprentissage(職業訓練)をしながら学ぶ若者たちのナマの声も紹介され、これからお子さんの進路問題が現実テーマになる在スイス日本人のみなさんにとっても、より広い意味でのスイスの職業教育システムの基本理念を理解できる非常に役立つ本と言える。

是非手にとってお読み頂きたい。

さらにもうひとつうれしいのは、本書に引用されている書籍の中に、例えば、『スイス探訪』(國松孝次著、角川書店、2003年)や『ブランド王国スイスの秘密』(磯山友幸著、日経BP社、2006年)など、本誌の「本の紹介」欄で紹介した本からの引用も沢山あり、スイス社会とスイス人をより深く理解する手引き書にもなっている点だ。

なお、著者・浜田久美子さんは、精神科のカウンセラーを経て、木の持つ力ことから森林を手間にした著述業に転身し、すでに『森の力』(岩波新書)、『森をつくる人びと』、『木の家三昧』『森のゆくえ』(以上コモンズ)など森と木に関する著書を出版してきた。

(注)近自然学研究所(山脇正俊所長)については、下記のサイトをご覧下さい。
www.kinshizen.jp/homepage/profile-jp.html
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